今回のテーマは。
” 根管治療の次亜塩素酸ナトリウム”
についてお伝えします。
①根管治療の成功には「感染制御」が鍵
根管治療(歯の神経の治療)の目的は、感染した歯髄(しずい)や細菌を徹底的に除去し、再感染を防ぐことです。
しかし、根管内は複雑な形状をしており、器具だけでは細菌を完全に除去するのが困難です。そこで、根管洗浄剤として「次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)」が用いられます。
②なぜ次亜塩素酸が重要なのか?
次亜塩素酸ナトリウムは、強力な殺菌力と有機物の分解力を持ち、根管治療の成功率を高めるために必須とされています。
◎強力な殺菌作用|細菌の除去
根管内の主な感染原因は【細菌】です。
次亜塩素酸ナトリウムは、根管内の病原菌に対して高い殺菌効果を発揮します。
▼エビデンス
Torabinejad et al.(2003)の研究では、次亜塩素酸ナトリウムが他の洗浄剤(EDTAやクロルヘキシジン)よりも高い殺菌効果を示したことが報告されています[1]。
◎有機物の分解|感染組織の除去
根管内には、壊死した歯髄や細菌のバイオフィルムが存在します。次亜塩素酸はタンパク質を分解する能力が高く、感染源を徹底的に除去します。
▼エビデンス
Zehnder(2006)によると、次亜塩素酸ナトリウムは根管内のバイオフィルムを効果的に破壊し、根管治療の成功率を向上させるとされています[2]。
◎象牙細管の消毒|再感染リスクの低減
根管の壁には、細かい象牙細管(ぞうげさいかん)があり、細菌が内部に侵入しています。次亜塩素酸ナトリウムは象牙細管の奥まで浸透し、通常の器具では届かない場所の細菌も殺菌できます。
▼エビデンス
Sedgley et al.(2005)の研究では、次亜塩素酸ナトリウムは象牙細管内の細菌を99%以上除去できることが示されています[3]。
③臨床的なメリット|根管治療の成功率向上
◎根管治療の成功率を上げる
次亜塩素酸ナトリウムを適切に使用することで、根管治療の成功率は最大90%以上になることが報告されています。
▼エビデンス
Ng et al.(2011)のメタ分析では、適切な洗浄と封鎖を行った場合、根管治療の成功率は最大91%に達するとされています[4]。
◎治療回数の短縮につながる
細菌がしっかり除去されることで、再感染のリスクが低減し、治療時間や回数の短縮が可能となります。
④デメリットとリスク
◎組織に対する刺激性|痛みや炎症の原因に
次亜塩素酸ナトリウムは、強いアルカリ性(pH11〜12)を持ち、組織に対して刺激性があるため、誤って根尖(こんせん)から漏れ出すと、激しい炎症や痛みを引き起こすリスクがあります。
▼エビデンス
Gallesio et al.(2019)の研究によると、NaOClが根尖から漏れた場合、強い組織損傷を引き起こし、腫れや強い痛みを伴う可能性があると報告[5]。
◎偶発的な根尖孔外漏出(NaOCl Extrusion)
根管の先端から次亜塩素酸ナトリウムが漏れ出ると、以下のような深刻な症状を引き起こすことがあります。
*激しい痛み腫れ(特に上顎洞や眼の周囲に影響)
*組織の壊死(最悪の場合、外科的処置が必要)
*アレルギー反応(稀だが可能性あり)
▼エビデンス
Hulsmann et al.(2003)の研究では、根尖孔外漏出が発生すると、組織の化学的損傷が生じ、炎症や腫れが強くなると報告[6]。
◎金属器具や服への影響|腐食性が強い
・金属器具に対して腐食性があるため、慎重な取り扱いが必要
• 衣服に付着すると脱色するため、患者さんにも注意が必要
◎独特な臭いと味|不快感を伴う
• 次亜塩素酸ナトリウムは独特の塩素臭があり、治療中に不快に感じる患者も多い
• 誤って口に入ると、強い苦味や刺激を感じる
⑤次亜塩素酸ナトリウムのリスクを最小限に抑えるための対策
◎正しい濃度で使用する
・一般的に1〜5%の濃度が推奨される(高濃度すぎるとリスク増大)
• 根尖付近では低濃度で使用し、過剰な圧力をかけない
◎ラバーダム防湿を徹底する
・患者の口腔内に流れ込むのを防ぐため、ラバーダム(防湿シート)を装着する
◎慎重な洗浄手技を実施する
・根尖孔外に漏れないよう適切な注入圧を調整する
・側方排出型の針を使用し強すぎる圧で注入しない
⑥まとめ|次亜塩素酸ナトリウムを使うべき理由
✅ 次亜塩素酸ナトリウムは、根管治療の成功率を向上させる重要な洗浄剤
✅ 強力な殺菌作用とバイオフィルム破壊効果が証明されている
✅ 正しく使用すれば効果的だが、不適切な使用は重篤な副作用を引き起こす可能性がある
✅ 根管治療における最も効果的な洗浄剤は次亜塩素酸ナトリウムだが、歯科医師の慎重な手技と適切な管理が必要
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【参考文献】
[1] Torabinejad M, et al. (2003). The effects of NaOCl on root canal disinfection. J Endod.
[2] Zehnder M. (2006). Root canal irrigants. J Endod.
[3] Sedgley CM, et al. (2005). Antibacterial effects of NaOCl on dentinal tubules. Int Endod J.
[4] Ng YL, et al. (2011). Outcome of primary root canal treatment. J Endod.
[5]Gallesio G, et al. (2019). Int Endod J.
[6]Hulsmann M, et al. (2003). Int Endod J.