歯が割れて抜歯と
診断された方
歯根破折
歯根破折とは
歯の根の部分にあたる「歯根(しこん)」が、主に縦に割れたり、ひびが入ったりすることをいいます。歯根破折を起こすと、そこから細菌が侵入するなどして、腫れたり膿をもったりといった様々な症状がでるようになります。歯根破折を起こした歯は、これまで「抜歯」が常識でした。
歯根破折の症状
歯根破折は、気づきにくい場合もありますが、以下のような症状があります。
- 歯がしみる
- 噛むとズキっと痛む
- 違和感がずっとある
- 何もしてなくても痛い
- 歯ぐきにデキモノ
- 歯がグラグラする
歯根破折の原因
-
神経がない歯
神経をとっている歯は、歯の厚みが薄く、強度がなくとても脆弱な歯のため歯が割れやすくなります。
-
過度な力
歯ぎしり、くいしばりなど歯に過度な力がかかると歯が割れやすくなります。
-
ブリッジや義歯の支えの歯
ブリッジや義歯を支えている歯は、正常な状態に比べてとても力が加わりやすく歯が割れやすくなります。
-
金属の土台
金属の土台は、ものすごく硬く歯に負担がかかりやすく歯が割れやすくなります。
歯根破折で"抜歯"を選択した場合
メリット
- 感染源が取り除けるため、
炎症をなくすことができる抜歯をすることで、感染源など原因を確実に取り除けるので、痛みを改善することができます。また、感染源を取り除けるため、周囲の悪影響を最小限にできます。
デメリット
- 抜歯をするので
一定期間(1週間ぐらい)の痛みを伴う抜歯中は、麻酔をするため痛みは基本的にありませんが、治療後から1週間程度痛みを伴うことがあります。 - 歯を失い、その後に治療方法を
考えなければならない歯を失った場合、そのまま放置してしまうと後から取り返しがつかなくなることもあるので、抜歯する前に治療方法を決める必要があります - 失った歯に人工の歯を入れる必要がある歯を失った場合は、歯に代わる人工な物を入れる必要があります。
入れ歯、ブリッジ、インプラントなどのいくつか選択肢がありますが、いずれの選択肢でも当然費用がかかります。治療方法によっては残った歯に負担が掛かり、痛みが出ることや将来さらに歯を失うリスクもあります。1本失うことで、他の歯に負担がかかり、またさらに1本失いドミノ倒しのように負の連鎖が始まってしまいます。
歯根破折で"抜歯しない保存方法"を選択した場合
意図的再植
意図的再植とは、歯が割れてしまった場合に最後の手段として行う治療になります。歯を慎重に一度歯を抜き、歯が割れてしまった部分を補修した後、抜いた場所へ元に戻す方法になります。
意図的再植治療の流れ
- 診査診断口腔内診査、レントゲン撮影等により、歯を残せるのか適応となるのかを診断します。
- 説明神経を残せると診断した場合、意図的再植について説明を行います。期間、回数、費用など事細かにお伝えします。
- 抜歯歯を残すために、一度抜歯を行います。
- 感染した組織の除去抜歯した部分から、骨の中にある感染源を除去します。また、歯が割れている場合には、生体親和性のあるお薬で、割れている歯をくっつけます。
- 歯を戻し固定綺麗になった状態を確認し、元にあった場所に戻して縫合をし固定します。
- 抜糸縫合した糸を取ります。
治療のメリット
- 自分自身の歯を使い続けることができる
- 歯を残せる可能性をあげることができる
治療のデメリット
- どのような症状においても適用できるわけではない
- 最終手段のため、延命治療になる可能性がある
- 術中に保存が不可能なため、抜歯をせざるを得ないこともある
治療費用
| 意図的再植 | 50,000円+税 |
|---|
当院が大切にしていること
当院では可能な限り、歯を保存できる条件であれば患者さんに十分説明を行い、歯の寿命が他の歯に比べて短い可能性があることなどをご理解とご納得をいただいてから治療を進めるようインフォームドコンセント(説明と同意)を大切にしております。
治療は患者さんのご希望のみを尊重しすぎてもいけませんし、歯科医師側の意見の押し売りでもいけないと思います。現在の状況、これから起こり得るであろう予後、それらに対しエビデンスのある治療方針をいくつかご提示し、患者さんと歯科医師とで意見を擦り合わせ納得いく形で治療をすすめていくことがお互いにとってより良い関係を築けるかと思っております。
疑問点や気になることなどなんでもご相談ください。
ご相談、ご興味ありましたら、ぜひお問い合わせお待ちしております。
よくある質問
Q.どうして歯が割れてしまうのですか?
A.歯根破折は、神経を取っている歯や金属の土台(メタルコア)が入っている歯に多く見られます。
これらの歯は強度が落ちて脆くなるため、噛む力・歯ぎしり・食いしばりなどの力がかかった際に、縦にひびが入ったり割れたりしやすくなります。ブリッジの支台歯など、過度な負荷が集中する歯にもよく起こります。
Q.どうやって発見するのですか?
A.初期のひび割れはレントゲンだけでは写らないことも多く、以下の症状から疑います。
- 噛むと鋭い痛みが出る
- しみる・違和感が続く
- 歯ぐきにできもの(瘻孔)ができる
- 部分的に歯ぐきが腫れる
- その歯だけ歯周ポケットが深い
専門的には、限局した歯周ポケット有無、ポケットの急激な深い数値、CT評価などを組み合わせて診断します。
Q.割れた歯は自然に治りますか?
A.残念ながら、歯根破折は自然には治りません。
骨の中にある歯根が割れると、ひびの隙間から細菌が入り続け、炎症・膿・骨吸収が進むため、放置すると状態が悪化するだけとなります。
Q.歯根破折はどうすれば防げますか?
A.完全に防ぐことは難しいですが、以下の対策でリスクを大幅に下げられます。
- 神経を取った歯には適切な被せ物(クラウン)を行う
- メタルコアではなく、負荷の少ないファイバーコアを選ぶ
- 歯ぎしりがある方はマウスピース(ナイトガード)を使用
- 咬合力を診断し、必要に応じて噛み合わせ治療を検討
- 定期検診で早期にひびの兆候をチェック
特に、神経を失った歯は「割れやすい歯」であるため、早めの対策が大切です。
Q.放っておくとどうなりますか?
A.放置すると…
- 痛み・腫れを繰り返す
- 歯ぐきに膿が出続ける
- 骨がどんどん溶ける
- 周りの歯にまで悪影響
- 結果的に抜歯が避けられなくなる
さらに怖いのは、骨の破壊が進みすぎると、インプラントなど選択肢が少なくなることです。
早期の診断・治療が非常に重要です。
Q.歯が割れた場合でも、歯を
残せることはありますか?
A.割れ方・位置・炎症の程度によっては、意図的再植や歯根端切除などにより保存できるケースがあります。
-
特に意図的再植は、
- 歯を一度抜く
- 割れた部分を修復
- 清掃後に元の位置へ戻すという、歯を残すための最後の手段として有効
ただし、すべての歯に適応できるわけではなく、状態を見極めることが大切です。
Q.意図的再植にはどんなリスクが
ありますか?
-
A.
- 保存できず抜歯になる可能性
- 根の外側が大きく割れている場合は予後不良
- 将来的に延命治療となるケースもある
そのため、本当に残せる歯なのかを検査し、患者さんと相談したうえで治療方針を決めていきます。
Q.痛みがない場合も受診した方が
いいですか?
A.はい。
歯根破折の多くは痛みが弱くても進行しているため、
- 歯ぐきにニキビのようなデキモノ
- 部分的な腫れ
- 噛んだときの違和感
などがあれば早期受診が必要です。
Q.抜歯したくありません。
相談できますか?
A.もちろん可能です。
当院では歯を残す治療を中心に診断を行っていますので、
- 残せる可能性
- 残した場合のメリット・デメリット
- 抜歯した場合の治療選択肢(インプラント・ブリッジなど)
を丁寧に説明し、患者さんと一緒に最善の選択をします。
Q.歯根破折と歯周病には
関係がありますか?
A. はい、深い関係があります。
歯根破折が起こると、その部分に細菌が入り込み、歯周病のように骨が溶けてポケットが深くなることがあります。
-
特に、
- その歯だけ極端に深い歯周ポケットがある
- プロービング時に一ヶ所だけ急激に深い数値が出る
- 歯ぐきに膿やデキモノができる
これは 歯根破折の典型的なサインです。逆に、歯周病で骨が大きく失われている場合は、歯に負荷が集中しやすくなり、破折のリスクが上がることもあります。
Q.CTを撮ると何が分かりますか?
A.歯根破折の診断にはCT(3D画像)が非常に有効です。
-
CTでは、
- 骨の吸収部分の広がり
- 破折線の疑いがある位置
- 根の周囲に限局した炎症
- 周辺組織の状態などが立体的に確認できる
通常のレントゲンでは写らない初期破折も、CTなら破折の“結果として起きる骨の欠損”を見つけられるため、診断精度が大きく向上します。
Q.歯根破折はどのくらいで悪化
しますか?(放置期間の目安)
A.破折の進行スピードは個人差がありますが、放置すると数週間〜数ヶ月で確実に悪化します。
放置した場合に起こる変化
- ひびから細菌が侵入し続ける
- 骨がどんどん吸収される
- 膿がたまり、腫れを繰り返す
- 保存不可能となり抜歯へ
- 骨の欠損が大きくなるとインプラントも難しくなる
特に、神経のない歯・メタルコアの歯は進行が速い傾向があります。
Q.すぐ抜歯が必要なのはどんなケース
ですか?(緊急性の高い破折)
A.以下のような場合は、保存できない可能性が極めて高く、早急な抜歯が必要になることがあります。
- 歯根が完全に縦に割れている(縦破折)
- 根の先まで割れが及んでいる
- 歯ぐきから膿が持続的に出続ける
- 一つの歯だけ10mm以上の深いポケット
- 骨吸収が大きく広がっている
- 痛み・腫れがひどく発熱している
ただし、CTや精査で部分的破折であれば保存できるケースもあるため、「割れている=即抜歯」ではありません。まずは診査し、残せる可能性を丁寧に判断します。